Showa Style―再編・建築写真文庫 在线电子书 图书标签: 房 建 城 典
发表于2024-11-18
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都築響一 : 1956年、東京生まれ。1976‐86年、『POPEYE』『BRUTUS』誌で現代美術、建築、デザイン、都市生活などの記事を主に担当する。週刊『SPA!』誌上で5年間にわたって連載された、日本各地の奇妙な新興名所を訪ね歩く「珍日本紀行」の総集編『ROADSIDE JAPAN』が1996年冬に発売されている(アスペクト刊、第23回木村伊兵衛賞受賞、2000年増補改訂文庫版東日本編、西日本編を筑摩書房より刊行)
本書は昭和28(1953)年から45(1970)年まで、17年間にわたって出版された全145巻の『建築写真文庫』から、商業・公共建築に分類される79巻を選び、再編集してまとめたものである。古書店の店頭やウェブサイトで、見かけては買っているうちに、少しずつ手元に集まってきた『建築写真文庫』。その全巻のほとんどが、実はたったひとりの人間によって取材、撮影、編集、デザインされたものであること、それも発行元内部ではなく外部の、さらには文筆業でも写真家でもなく、建築家であり数寄屋研究家である、北尾春道という人物によって手がけられたものであることを知ったとき、口はばったいようだが、偉大な先輩がここにいた!と思わずにいられなかった。
建築家・数寄屋研究者にして、稀代の趣味人であったひとりの人間によって取材、撮影、編集までてがけられた建築写真文庫には、本書に掲載されたものだけで300件以上、全145巻を通してみれば、おそらく千数百の物件が、この恐るべき好奇心と健脚の持主によって記録されている。しかしそのうちで店舗として有名なところはあっても、建築作品として、近代建築史に残るような傑作も、有名建築家による作品も、実はほとんど収録されていない。
喫茶店、洋食屋、キャバレー、ナイトクラブ、蕎麦屋、鮨屋、ガソリンスタンド、美容院、瀬戸物屋、電器屋・・・。徹底した無名性と、市井へのまなざし。というかストリート・レベルへの執着。建築界のエリート・コースを歩んできた専門家中の専門家であり、茶人を援助するほど茶道や、花柳界にも造詣が深い粋人であった北尾春道にとって、多数の著作のうちでも異色の内容を持つ建築写真文庫とは、いったいどのような意志から生まれたものだったのだろう。17年間にわたって145巻ものシリーズを制作した背後に、いったいどんなモチベーションが働いていたのだろう。
北尾よりも40年近く前に生まれたウジェーヌ・アジェが失われゆくパリを、北尾より2年あとに生まれたベレニス・アボットが変貌するニューヨークを記録しつづけたように、北尾は敗戦直後からの日本の都市生活の風景を淡々と、執拗に記録しつづけた。戦争によって徹底的に破壊され、再生する過程をつぶさに見てきた東京や大阪ばかりを。
眼前に展開する都市の変貌は、日本という敗戦国が息を吹き返すエネルギーそのものだったろうし、その命のはかなさ、いまあるこの風景もいつか失われていくだろうという確信も、そこにはあったはずだ。そして彼は明確に意識していたにちがいない。時代のリアリティは、有名作家や作品ではなく、街にあふれる無名の建築と、無名の人々によってこそ、表現されるべきものであることを。
いま、ファッショナブルなショッピング・エリアに並ぶ、ファッショナブルなショップ群に、いったいどんな魅力があるだろうか。巨大ブランドが、その土地となんのゆかりも、なんの思い入れもない有名建築家を雇って、その土地にもひとびとにも、なんの接点も引っかかりもない「建築作品」を乱造しては、また壊していく。そこにあるのは資本の論理だけであって、売る側と買う側、作る側と使う側の交流でも、商売のよろこびでも、よりよい暮らしの夢ですらない。
建築写真文庫の最終巻が出版されたのは1970年、大阪万博が開かれた年である。「人類の進歩と調和」をうたった、ほとんど陽性の狂気のごとくハッピーな気分にあふれた万国博覧会。それは明るい未来がかならずやってきて、建築がそのためにかならず役立つという、いまでは幻想でしかない思いこみを全世界が共有できた、最後の万国博覧会だった。
1970年、僕らのうちで、なにかが死んだのだ。ひとびとのくらしと建築デザインが幸福感覚をともにできた古き良き時代の、もっとも身近で、もっともリアルな記録。それが建築写真文庫なのかもしれない。
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