中世日本の王権と禪・宋學 在線電子書 圖書標籤: 日本 思想史 東亞史
發表於2024-11-26
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第一部「中國・朝鮮の近世王権」は宋學が正統教義であった近世中國・朝鮮王朝それぞれの王権理論と東アジア諸國間の近世儒教の位相を論じる三つの論考からなる。
井澤論文は、東アジア諸國における皇帝・王などの為政者による祖先祭祀の諸相を、宗廟の創設・変 遷から扱う。まず、宋代太廟製の特徴や変遷、元・明との類似點を述べる。ついで朝鮮王朝における宗廟製の変遷を明らかにし、中國を継承した點と朝鮮獨自の點とを指摘する。そして日本の皇室の祖先祭祀に言及して、「祖先祭祀」から見た各國の共通性と相違性を考察している。
山內論文は、高麗から朝鮮への易姓革命を、朝鮮王朝の當事者たちがどのように権威づけ正當化していったのか、健元陵神道碑、『龍飛禦天歌』、『高麗史』を分析して述べる。前二者に描かれた太祖李成桂やその祖先・子孫代々の事蹟は王朝を権威付けする記述に満ちているが、それは正史として実証史學の史料に用いられている『高麗史』にも當てはまり、これらをはじめから「神話」として認識することの意義を提起する。
伊東論文は、まず硃子學から陽明學への流れ全體を「近世儒教」と措定したうえで、同じく「近世」の語をもって呼ばれる日本の江戸時代との比較を行う。また、明清時代の思想史・社會史諸研究を整理し、溝口雄三の所説が占める學説史的位置を論評する。最後に江戸時代の日本の思想狀況を俯瞰することで東アジアのグローバリゼーションが見齣されることを述べる。
第二部「鎌倉時代の王権」は『愚管抄』や『古今著聞集』など、十三~十四世紀の日本で書かれたテクストを対象として鎌倉時代の言説を読み解いていく四つの論考からなる。
シュライ論文は、時代的には重なるものの屬する文化や歴史的背景を異にする二人の思索者の比較を通して見た王権論の考察である。前半では王権概念に関する歐米での先行研究整理を行ったうえで、その一例としてのオットーの思想が分析される。そして後半ではこれとの比較のもとに『愚管抄』と「夢想記」とに見える慈円の王権論が解釈され、神聖王権という概念の広義での使用が提案される。
水口論文は、儒教儀禮の日本化譚の分析である。すなわち、某人の夢に孔子が現れて大學寮の孔子祭祀(釈奠)で犠牲獣ではなく植物を供えるに至った理由を語る説話に注目し、藤原頼長の日記『颱記』と橘成季の『古今著聞集』との相違點として、後者では孔子が天照大神と同席するからとしていることを指摘する。これは既存の観念を逆手に取ってある価値観を擁護するという、『古今著聞集』全體に通底する世界観の基本構造に呼応するものだという。
近藤論文は、天皇の譲位がどのような政治狀況のもとで行われ、また逆に天皇の譲位がどのような政治狀況を作り齣したのかを考察している。皇位を譲る父なる天皇と、皇位を受ける子たる天皇の意誌は必ずしも一緻せず、後者が前者の修正を図る事例があったこと、両統迭立の狀況においては皇太子の座をめぐる競爭が激しくなったことを指摘している。
ラポー論文は、文観房弘真の「逆徒退治護摩次第」をもとに後醍醐王権における宗教儀禮を分析する。護摩儀禮の一種として密教儀禮の構成要素となった調伏法は、後醍醐政権においては特に軍事的手段として活用された。その儀禮テクストを仔細に分析することで、調伏する側の王権観を明らかにしようと試みている。
第三部「禪僧と儒者の王権論」は禪僧たちの宋學理解と王権との関わりを扱う二つの論考と、宋學の 日本的変容である水戸學と近代天皇製との関係を論ずる論考とからなる。
小島論文は、元に留學して帰朝した臨済僧中巖がかの地で得た宋學についての知識をどう咀嚼したかを論じている。彼の政治論『中正子』は、従來硃熹の思想と直接比較して論じられてきたが、中巖が実際に接した元代禪林での硃子學受容や、硃子學もその一構成要素である宋學全體のなかで考察される必要がある。『中正子』には仏教の立場から宋學を論じた北宋の契嵩の影響も看取されるとし、本場中國や高麗の場閤と比較して當時の日本における宋學受容の特異性が指摘される。
保立論文は、王権との深い関わりのなかで南浦紹明・宗峰妙超の法統に始まった大徳寺が、持明院・大覚寺両統の対立とどう関わったかを扱う。大徳寺が元弘の変による後醍醐天皇の還禦直後に所領安堵されている點からも、「公傢一統」を象徴する寺院としてのその位置づけが窺えるとし、建武新政期における禪律國傢構想は室町幕府の禪宗國傢構想に影響を與えたと論じられる。
陶論文は、『大日本史』編纂作業を終結させた人物の教育勅語解釈を対象に、明治時代の國傢神道成立の思想史的背景を描いている。栗田は藤田東湖に代錶される後期水戸學の嫡流として、天皇製國傢を祭祀儀禮により維持・再生していく運命共同體として提示した。これを伊藤博文・井上毅の憲法製定路線と比較対照することで、後者が「苦肉の策」だったことが照射される。
本書はこのように個別論文を連ねる形になっているけれども、共同研究の成果として首尾一貫したテーマを追究しているつもりである。……本書が「明治百五十年」の時期に公刊されたことは、時事的に幾分かの意義をもつかもしれない。日本が中世・近世にどのような文化交渉を経てきたか実証的に確認する作業が、維新後百五十年の歩みを再考する機縁となれば幸いである。
評分
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